野口雨情
底本:「定本 野口雨情 第三巻」未来社
1986(昭和61)年3月25日初版第1刷
1996(平成8)年5月31日初版第2刷
底本の親本:「青い眼の人形」金の星社
1924(大正13)年6月発行
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:大野晋
校正:林 幸雄
野口雨情
童謡は童心性を基調として、真、善、美の上に立つてゐる芸術であります。
童謡の本質は知識の芸術ではありません、童謡が直(すぐ)に児童と握手の出来るのも知識の芸術でないからであります。
童謡が児童の生活に一致し、真、善、美の上に立つて情操陶冶の教育と一致するのも超知識的であるからであります。
本書は大正九年に発行した第一童謡集『十五夜お月夜さん』以後の作中からセレクトした第二童謡集であります。
金の星編輯部にて 雨情
[#改ページ]
赤い桜ンぼ
十と七つ
雁(がん) 雁 ならんだ
十(とを)と七つ
七つならんだ
十と七つ
十と七つで
飛んで渡る
雁 雁 この町
啼いて通つた
啼き啼きならんだ
十と七つ
今夜どこまで
飛んで渡る
青い眼の人形
青い眼をした
お人形は
アメリカ生れの
セルロイド
日本の港へ
ついたとき
一杯涙を
うかべてた
「わたしは言葉が
わからない
迷ひ子になつたら
なんとせう」
やさしい日本の
嬢ちやんよ
仲よく遊んで
やつとくれ
かなかな
遠いお山の
蜩(かなかな)は
ひとりぼつちで
なきました
母さん たづねに
出かけませう
父さん たづねに
出かけませう
遠いお山の
蜩は
ひとりぼつちで
なきました
日さへ暮るれば
かーな かな
眼さへさませば
かーな かな
赤い桜ンぼ
赤い 赤い
桜ンぼよ
どこで生れたの
一軒家の
お背戸で
生れたの
ほんたうは
桜ンぼよ
どこで生れたの
ほんたうに
一軒家の
お背戸で 生れたの
乙姫さん
竜宮の 竜宮の
乙姫さんは
トントンカラリン
トンカラリンと
機(はた)を織りました
黄金(こがね)の襷(たすき)を
背中に結んで
トントンカラリン
トンカラリンと
機を織りました
浦島太郎も
トントンカラリン
黄金の襷で
トンカラリンと
機を織りました
千年織つても
トントンカラリン
万年織つても
トントンカラリンと
歌つて織りました
西吹く風
山から
海から
秋が来た
河原の楊(やなぎ)の
葉が
枯れた
渚の 芒(すすき)の
葉も
枯れた
山から
西吹く
風が吹く
海から
山吹く
風が吹く
雀の子供
雀の 子供が
生れたよ
穀倉(こくぐら)の 廂(ひさし)で
生れたよ
昨日は 一羽
今日は 二羽
雀の 子供が
生れたよ
河原の お藪で
生れたよ
昨日は 一羽
今日は 二羽
河原で 生れた
藪雀
廂で 生れた
軒雀
チンチン 啼き啼き
生れたよ
千代田のお城
千代田の お城の
鳩ぽつぽ
鳩ぽつぽ ぽつぽと
啼いてたよ
千代田の 御門(ごもん)の
白い壁
千代田の お濠(ほり)の
青い水
鳩ぽつぽ ぽつぽと
啼いてたよ
上野のお山
上野のお山の
かん烏
神田の子供は
何にしてた
表の 通りで
遊んでた
上野のお山の
かん烏
神田の子供は
何に見てた
何んにも見ないで
屋根見てた
呼子鳥
子供が ゐたかと
呼子鳥(よぶことり)
かつぽん かつぽん
呼子鳥
子供は お山の
靄の中
子供は 谷間の
霧の中
子供が ゐたよと
呼子鳥
かつぽん かつぽん
呼子鳥
屋根なし傘
おぼろお月さんは
花嫁さん
屋根なし傘(からかさ)を
さしてゐる
おぼろお月さんは
花嫁さん
屋根なし傘で
濡れてしまふ
丸い蛇の目の
傘を
おぼろお月さんに
かしてやろ
おぼろお月さんは
花嫁さん
星根なし傘で
濡れてしまふ
山彦
山に 山彦
尾長鳥
呼んでも 呼んでも
ホーイホイ
山の お星さん
はなれ星
待つても 待つても
ホーイホイ
河に 翡翠(かはせみ)
河雀
呼んでも 呼んでも
ホーイホイ
河原の お星さん
はなれ星
待つても 待つても
ホーイホイ
桜と小鳥
いい歌 聞かそ
いい歌 聞かそ
桜の 花の
いい歌 聞かそ
小鳥の 歌の
いい歌 聞かそ
桜の 歌は
どの子に聞かそ
小鳥の 歌は
どの子に聞かそ
あしたの朝は
この子に聞かそ
二つの小鳥
畑で 米磨ぐ
なんの鳥
あれは 畑の
みそさざい
跣足(はだし)で 米五合
磨いだとサ
河原で 機織る
なんの鳥
あれは 河原の
河原鶸(ひわ)
河原さ 呉服屋
出すだとサ
でんでん虫
今日は 引越しだ
でんでん虫の
引越しだ
ポロポロ雨の 降つてるに
家を負(しよ)つて
引越しだ
どこへ 引越しだ
茶の樹の葉つぱへ
引越しだ
のーろり のろり のろり
家を負つて
引越しだ
おしやれ椿
藪の 中に
咲いてる
藪椿
赤いべに さした
あの花
おしやれ
うしろ向いて
咲いてる
藪椿
赤いべに 貰ほ
あの花
おしやれ
子守唄
父さんなくとも
子はそだつ
母さんなくとも
子はそだつ
雀と遊んで
ゐるうちに
七(ななつ)のお歳の
日は暮れる
父さんなくとも
日は暮れる
なんなん七の
日は暮れる
母さんなくとも
日は暮れる
なんなん七の
日は暮れる
夢を見る人形
赤い靴 ほしがる
お人形さんは
赤い靴 はいてる
夢をみる
赤い靴 ほしがる
お人形さんは
夢で 赤い靴
はいてゐる
赤い帯 ほしがる
お人形さんは
赤い帯 しめてる
夢をみる
赤い帯 ほしがる
お人形さんは
夢で 赤い帯
しめてゐる
帰る燕
燕の 子供が
帰つてゆく
お母(つか)さんに 連(つれ)られて
帰つてゆく
オペラパツク おみやげに
やりませう
来年 お母さんと
またおいで
お母さんと ふたりで
またおいで
一つお星さん
一つ お星さん
海の上
一つ お星さん
屋根の上
千鳥は 渚で
日がくれる
馬は、厩(うまや)で
日がくれる
一つ お星さん
海の上
一つ 一軒家の
星根の上
お人形さんの夢
お人形さんの
昔のお家(うち)は
ガラスのお窓
鳳仙花が
一杯 お庭に
咲いてゐた
お人形さんは
今でも 鳳仙花の
夢を見る
お人形さんは
ガラスのお窓の
夢を見る
昼の月
白いお月さん
昼の月
お月さん子供の
夢みてる
片われお月さん
昼の月
かはい子供の
夢みてる
さらさら時雨
畑の 中の
さらさら
時雨(しぐれ)
さら さら さツと
鶏(とり)が 頸
曲げた
厩(うまや)の 屋根の
さらさら
時雨
さら さら さツと
馬の 耳
濡れた
名所めぐり
柱くぐり
奈良の大仏さんの
うしろの柱
柱よー
二人子供が
柱くぐりしてる
くぐれよー
奈良は日永(ひなが)だ
いつ日が暮れる
子供よー
おれも くぐろか
子供と共に
くぐろよー